地方での看護師不足と都会の事情

地方での看護師不足を語る上で避けて通れないのが「7対1看護」の問題です。2006年度の診療報酬改定で「7対1入院基本料の報酬加算要件」が始まりました。これは病棟の患者数に対する看護師の配置基準で、7人の入院患者に対して1人の看護師を配置するという制度です。それ以前は10対1、13対1といった配置もありましたが、現在ではほとんどでこの「7対1看護」が行われています。

単純に考えると、もし患者が70人いたとすれば、10対1看護では看護師が7人必要で、7対1なら10人必要ということです。この場合、7対1看護になることでさらに3人の看護師が必要になります。患者としては看護師が多い方が世話をしてもらいやすくなり、同時に看護師の負担も減る、という理屈だったのですが、実際にはこのおかげで看護師の争奪戦が始まってしまいました。

7対1の配置にすると診療報酬がもっとも高くなる、つまり「儲かる」ことから各病院とも不足分の看護師を集め始め、特に都会の有名な大病院などはあの手この手で新人看護師を獲得し、さらには地方から中堅看護師の引き抜きまで行いました。そういった知名度や資金力のない地方の中小の病院には新卒者も来ず、募集をかけても応募がないといった状況に陥ってしまったのです。

そのため、どうにか7対1看護を達成するために小児科や産婦人科といった科をたたんでその看護師を充てたり、一人の看護師に病棟勤務と外来勤務を兼任させるなどの対策を講ずる病院も出てきてしまいます。7対1看護は病棟勤務の看護師だけを対象にしているからです。中には退職した看護師がまだいることにしておく、名義だけの看護師を含めておくといった場合まであるということです。

7対1看護が始まったことで地方は「医療崩壊寸前」とまで言われるほどの深刻な看護師不足になってしまったのです。特に地方の小規模な病院では看護師の確保がままならず、かといって7対1に満たないままでは経営が維持できずに閉鎖を余儀なくされた病院も出てきています。この制度による地方医療への打撃はたいへん大きかったと言えます。

しかし、都会に看護師を取られたわけではないという意見もある。わたしたちのレベルでこれが要因だとわかる理由は、単純に医療機関の数です。都会しかも東京のベッドタウンと呼ばれる神奈川は、人口が多く病院も多い、急性期だけでなく療養期も多いのです。